イメージ_甲状腺眼症の基礎知識

甲状腺眼症の基礎知識

イメージ_甲状腺眼症による生活への影響

甲状腺眼症による生活への
影響

本コンテンツのポイント

Point 01
甲状腺眼症の患者さんでは、眼の痛みやドライアイ、複視や視力低下、視野欠損などの視機能の低下が起こる
Point 02
甲状腺眼症患者さんは、視機能の低下に加えて、顔貌の変化も起こることから、社会心理面、就労など、生活のさまざまな面において甲状腺眼症による影響を受けている
Point 03
甲状腺眼症の発症早期からの治療のため、甲状腺眼症専門機関への紹介が重要である

甲状腺眼症による視機能への影響

甲状腺眼症では、眼窩組織や眼の周囲の炎症による筋組織の肥大や脂肪増生の結果、眼球突出や眼瞼後退が起こり、眼や眼の周囲の痛みや違和感、ドライアイが生じます。また、炎症による外眼筋の運動障害や視神経の圧迫に伴って複視や視力低下などの視覚障害が起こります。

図1 甲状腺眼症は重大な視覚障害を引き起こす

甲状腺眼症患者の視覚障害
*:甲状腺視神経症(DON)を伴わない場合

甲状腺眼症が日々の暮らしへ及ぼす影響

甲状腺眼症の患者さんは、複視などの視覚障害や眼の痛み、顔貌の変化による行動の変容などによって、日常生活や社会生活に制限が生じるリスクを抱えています8)

図2 生活への影響が大きい甲状腺眼症の症状

甲状腺眼症患者さんは、視覚障害によって日常生活や社会生活に制限が生じるリスクを抱えている8)

実際、102例の甲状腺眼症患者さんを対象にしたドイツの調査では、45%の患者さんが不安、抑うつ、またはその両方を感じていたことが報告されています12)

図3 甲状腺眼症による心理的負担 -不安・抑うつ-

アイコン_ドイツ国旗

ドイツ

不安や抑うつを感じる甲状腺眼症患者の割合

グラフ_不安や抑うつを感じる甲状腺眼症患者の割合
グラフ_不安や抑うつを感じる甲状腺眼症患者の割合
【対象・方法】
甲状腺眼症患者102例を対象に疾患による心理的負担を、不安や抑うつを評価する質問票
(HADS:hospital anxiety and depression scale)を用いて評価した。(ドイツの前方視症例対照研究)
【Limitation】
論文内に記載なし。

12)

Kahaly GJ, et al.: Clin Endocrinol (Oxf). 2005; 63(4): 395-402.より作図

また、オーストラリアでは、甲状腺眼症患者特異的なQOLの聴取を目的に作成された質問票「modified GO-QOL質問票」を用いて、128例を対象とする調査が行われました。この調査では、患者さんの63%が、「顔貌の変化が社会心理的機能に著しく影響した」と回答しました14)

図4 甲状腺眼症の社会心理的影響

  • 甲状腺眼症の軽度の初期症状はしばしば誤診され、治療の大幅な遅れにつながる可能性がある15)
  • 甲状腺眼症の各症状は機能的な問題を起こすだけでなく、疾患に関連する社会心理的影響が患者の生活の多くの側面に影響を及ぼしている15,16)
  • 甲状腺眼症は就労、人間関係、自己肯定感に悪影響を及ぼし、患者を社会的交流から遠ざけることがある3,15)

甲状腺眼症患者のQOLの調査結果

グラフ_甲状腺眼症患者のQOLの調査結果

GO-QOL:Graves’ Ophthalmopathy Quality of Life

14)

Park JJ, et al.: Br J Ophthalmol. 2004; 88(1): 75-78.

【対象・方法】
豪州の単施設における甲状腺眼症患者162例を対象に、豪州向けに改変したGO-QOL質問票を用いた調査を郵送で実施し、同時に臨床症状についても後方視的に評価した。回答が得られた128例を対象としたが、全例甲状腺機能正常であった。
【Limitation】
論文内に記載なし。

17)

Ponto KA, et al.: Dtsch Arztebl Int. 2009; 106(17): 283-289.

【対象・方法】
ドイツの単施設における甲状腺眼症患者250例を対象に、受診時にQOLや就労状況に関する質問票を用いた調査を行った。
【Limitation】
甲状腺眼症専門機関における単施設研究であるため、対象が重症患者に偏っている可能性がある。

18)

Cockerham KP, et al.: Ophthalmol Ther. 2021; 10(4): 975-987.

【対象・方法】
米国の非活動期の甲状腺眼症患者100例(女性47例、白人81例、平均年齢45.2±7.6歳)を対象に症状とQOLに関するオンライン調査を後方視的に実施し、GO-QOLの点数により、50点以下を低QOL群、50点超から75点未満を中QOL群、75点以上を高QOL群と3つに層別化して検討を行った。罹病期間および非活動期の期間(平均値±標準偏差)は5.8±5.9年および3.0±4.6年であった。
【Limitation】
本研究は症例数が少なく、甲状腺眼症の病期や臨床情報は、患者の知識に基づくことから正確性に限界がある。また、データベースから非活動期の甲状腺眼症として抽出された206例のうち、オンライン質問票に回答した100例を対象としており、満足度の低い患者がより回答しやすく、結果に偏りを生じた可能性がある。

甲状腺眼症は社会心理面だけでなく、就労にも影響し、患者さんに経済的な負担が生じる場合もあります。デンマークで行われた縦断的登録研究およびドイツで行われた調査において、甲状腺眼症の患者さんでは病欠や失業、早期退職のリスクが上昇していることが示されました10,17,19)

図5 甲状腺眼症による疾病負担 -就労への影響-

アイコン_デンマーク国旗

デンマーク

  • 甲状腺眼症の患者は一般集団と比べ、診断後1年未満の病欠リスクが約7倍、1年以降の病欠リスクが約2倍、障害年金受給リスクが約4倍高かった19)。休職や失業からの復帰の可能性は約50%であった19)

甲状腺眼症患者の就労状況のハザード比
(Cox回帰分析)19)

HR:ハザード比(hazard ratio)、CI:信頼区間(confidence interval)

【対象・方法】
デンマーク市民登録システムを介して、非中毒性甲状腺腫、甲状腺機能亢進症、甲状腺眼症、自己免疫性甲状腺機能低下症、または他の甲状腺疾患の外来患者(862例、うち甲状腺眼症患者76例)と、年齢、性別、居住地域を一致させた対照(7,043例)を同定し、就労、病欠、失業、障害年金の状況を1994~2011年にわたって観察する縦断的登録研究を実施した。Cox回帰分析により、診断後最初の年とそれ以降の年の調整ハザード比(HR)を推定した。
【Limitation】
症例数が少ないため、信頼区間が広く、病欠から失業への移行などのリスクは推定できていない。また、60歳到達時点で本研究の追跡を打ち切りとしたため、結果は60歳未満の患者に限定される。

19)

Nexo MA, et al.: J Clin Endocrinol Metab. 2014; 99(9): 3184-3192.より作表

アイコン_ドイツ国旗

ドイツ

  • 甲状腺眼症患者の約3人に1人が、甲状腺眼症によって一時的または永続的に就労不能となり、2~5%が失業または早期退職した10,17)
  • 甲状腺眼症患者の病欠の期間は平均 22.3日/年で、重症度が高いほど病欠の期間が長かった10)

甲状腺眼症は患者の就労に影響することがあり、経済的にも負担が生じる10,17,19)

10)

Ponto KA, et al.: J Clin Endocrinol Metab. 2013; 98(1): 145-152.

【対象・方法】
ドイツの単施設において甲状腺眼症患者310例および対照として健常人、甲状腺眼症を伴わない甲状腺疾患患者、甲状腺以外の自己免疫疾患患者を含む370例を対象に、受診時に医師が病欠や就労状況に関する問診を行った。
【Limitation】
甲状腺眼症専門機関における単施設研究であるため、対象が重症患者に偏っている可能性がある。また、病欠や就労状況は社会保障制度により変化する可能性があり、社会保障制度が異なる他国には当てはまらない可能性がある。さらに、横断的研究であり患者の社会的背景に関するデータがないことや、患者の自己申告に基づくデータであることなどの限界がある。

17)

Ponto KA, et al.: Dtsch Arztebl Int. 2009; 106(17): 283-289.

【対象・方法】
ドイツの単施設における甲状腺眼症患者250例を対象に、受診時にQOLや就労状況に関する質問票を用いた調査を行った。
【Limitation】
甲状腺眼症専門機関における単施設研究であるため、対象が重症患者に偏っている可能性がある。

視機能と生活を守るために

このように、日常生活のさまざまな面に影響する甲状腺眼症ですが、発症早期からの治療により症状の重篤化の抑制や改善を期待できるようになってきました。甲状腺眼症は専門性の高い治療が必要な疾患であるため、速やかな専門機関への紹介が求められています。「バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針2023」では、一般医のための甲状腺眼症専門機関への紹介基準がまとめられています20)

図6 一般医療機関での診療

  • 甲状腺眼症を見逃さないために、紹介すべき症例の症状や所見を知っておくこと、疑わしい症状・所見を認めたら甲状腺眼症に詳しい医師・施設に紹介することが重要である。

一般医のための甲状腺眼症専門機関への紹介基準

1 至急紹介すべき症例

2 緊急でないが紹介すべき症例

20)

「バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針 2023」(第3次案)(2023年6月)
https://www.japanthyroid.jp/doctor/img/basedou03_2023.pdf.(2026年6月閲覧)

  • References
    1. Ismailova DS, et al.: Orbit. 2013; 32(2): 87-90.
    2. Selter JH, et al.: Clin Ophthalmol. 2014; 9: 57-62.
    3. Terwee C, et al.: Eur J Endocrinol. 2002; 146(6): 751-757.
    4. Sasim IV, et al.: Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2008; 246(9): 1315-1321.
    5. McKeag D, et al.: Br J Ophthalmol. 2007; 91(4): 455-458.
    6. Bartley GB.: Trans Am Ophthalmol Soc. 1994; 92: 477-588.
    7. Neigel JM, et al.: Ophthalmology. 1988; 95(11): 1515-1521.
    8. Yeatts RP.: Trans Am Ophthalmol Soc. 2005; 103: 368-411.
    9. Egle UT, et al.: Exp Clin Endocrinol Diabetes. 1999; 107(Suppl 5): S168-171.
    10. Ponto KA, et al.: J Clin Endocrinol Metab. 2013; 98(1): 145-152.
    11. Gerding MN, et al.: Thyroid. 1997; 7(6): 885-889.
    12. Kahaly GJ, et al.: Clin Endocrinol (Oxf). 2005; 63(4): 395-402.
    13. 日本甲状腺学会・日本内分泌学会編:甲状腺眼症診療の手引き メディカルレビュー社 2020.
    14. Park JJ, et al.: Br J Ophthalmol. 2004; 88(1): 75-78.
    15. Estcourt S, et al.: Eur J Endocrinol. 2009; 161(3): 483-487.
    16. Ozzello DJ, et al.: Am J Ophthalmol Case Rep. 2020; 19: 100744.
    17. Ponto KA, et al.: Dtsch Arztebl Int. 2009; 106(17): 283-289.
    18. Cockerham KP, et al.: Ophthalmol Ther. 2021; 10(4): 975-987.
    19. Nexo MA, et al.: J Clin Endocrinol Metab. 2014; 99(9): 3184-3192.
    20. 「バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針 2023」(第3次案)
      (2023年6月)https://www.japanthyroid.jp/doctor/img/basedou03_2023.pdf(2026年6月閲覧)

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