監修
京都大学大学院医学研究科 医学統計生物情報学 教授
森田 智視 先生
監修者の所属・役職は 2025 年 4 月時点の情報です
Log-rank検定
2つの生存曲線を比較する代表的な解析手法です。Log-rank検定では、ある特定の時点における生存率(例えば5年生存率など)を比較するのではなく、生存曲線の全体を比較することで、両群の生存状況に差があるかについて検定することができます。

Log-rank検定では、試験開始時点から終了時点までの期間において、群間差が偶然に生じたばらつきの範囲内であるかを調べます。一方の群の死亡率が一貫して他方の群よりも高く、加えて両群の死亡率の比が全期間にわたって一定である場合に差の検出力が高くなります。

層別log-rank検定
重要な予後因子の分布が群間で異なる可能性がある治療群間の比較では、有意差が認められたとしてもそれが治療法の違いによるものであるか、あるいは予後因子の違いによるものであるかを判断できません。そこで、予後因子(年齢やStageなど)によって層に分け、それぞれの層で群間比較したのちにそれらを統合して全体の群間比較を行う「層別log-rank検定」を用いることがあります。
参考:佐藤弘樹ほか. 臨床統計まるごと図解. 中山書店. 2013, p138-147
宮原英夫, 折笠秀樹監訳. 実践医学統計学. 朝倉書店. 2005, p69-76
赤澤 宏平. 医療情報学. 2000; 20(6): 451-461
Cox回帰モデル
Log-rank検定は単純に群間で生存曲線を比較する手法であるのに対し、Cox回帰モデルは治療法や背景因子など複数の因子が生存期間に与える影響を評価する手法です。Cox回帰モデルでは、各時点の瞬間的死亡率=ハザードをもとに解析します。そのためCox比例ハザードモデルと呼ぶこともあります。
参考:佐藤弘樹ほか. 臨床統計まるごと図解. 中山書店. 2013, p148-151
ハザード比
ハザード
ハザードとは、時点時点での瞬間死亡率のことを指します。カプランマイヤー曲線では、各時点での生存割合をプロットしますが、ハザードは生存曲線の傾きになります。

ハザード比
ハザード比とは、イベント(死亡)の起こりやすさを試験期間全体の平均的な群間差として推定したものです。通常は分子に新治療のハザード、分母に既存治療のハザードとして相対的な効果の大きさを推算します。
ハザード比が1であれば群間で治療効果に差がないと解釈されます。新治療のほうが高い効果をもつ、すなわちイベント発生を抑える力が強い場合にはハザード比は1を下回り、逆にイベント発生を抑える力が弱い場合にはハザード比は1を上回ります。例えば、新薬X群の既存治療群に対するハザード比が0.7であれば、新薬Xのほうが30%イベントを抑える力が強いと解釈できます。このハザード比の精度を示すものが95%信頼区間であり、狭ければ狭いほどその精度は高く、95%信頼区間が1を含まない場合に、統計的な有意性を示します。

イベントリスクを表す指標としてほかにオッズ比やリスク比があります。オッズ比やリスク比は「イベントの有無」を解析するのに対し、ハザード比ではイベントがいつ起こったのかという「期間(時間)」の情報も考慮されるため、生存時間解析ではハザード比を用います。
参考:新谷歩. 今日から使える医療統計.医学書院. 2015, p159-162
山崎力ほか. 臨床研究いろはにほ. ライフサイエンス出版. 2015, p46
佐藤弘樹ほか. 臨床統計まるごと図解. 中山書店. 2013, P80-81, 148-157, 162-167