監修
川崎医科大学 血液内科学教室 教授
近藤 英生 先生
監修者の所属・役職は2024年3月時点の情報です
近年、造血器腫瘍の領域では診断技術の進歩により、微小残存病変(MRD)の測定が可能になりました。現在、MRDは急性リンパ性白血病(ALL)における予後因子として認識されており、第一寛解期にMRD陰性に到達することで、長期寛解維持やその先の治癒が見込める可能性があります。今回は、成人ALLにおけるMRD測定の意義についてご紹介します。
ALL治療における白血病細胞増減の概念図

Ph陰性ALLにおけるMRD測定の意義
Ph陰性ALLでは、小児において早期のMRD陰性化が併用化学療法における強力な予後因子であることが報告され、追って成人ALLにおいても複数の報告において予後との関連が確認されています1,2)。
ドイツGMALL(German Multicenter Study Group for Adult ALL)の前向き試験(GMALL06/99、07/03)に登録されたPh陰性ALL580例の解析3)では、寛解導入化学療法I、II後(day71、CR率89%)において、感度10-4の白血病特異的IG/TR RQ-PCRによるMRD陰性化率は70%であり、5年全生存率は地固め療法後MRD陰性群で80%、MRD陽性群で42%と、MRD陰性群で有意に予後良好でした(Log-rank検定 P=0.0001)。さらに、CR1で同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を行った患者を除外した場合、5年生存率はMRD陰性群81%に対してMRD陽性群で33%でした(Log-rank検定 P<0.0001)。
またMRD陽性であった120例における、CR1でallo-HSCTを行った患者(n=57)と行わなかった患者(n=63)の比較では、5年後もallo-HSCT群で66%がCRを維持していたのに対し、allo-HSCTなし群では12%と有意にCR維持が不良でした(Log-rank検定 P<0.0001)。このことより、CRかつMRD陽性のALLにおけるallo-HSCTの有用性が確認されました。
また、マルチパラメーターフローサイトメトリー(MFC)によりMRDを測定した米MDアンダーソンがんセンターの報告では、hyperCVADを基盤とした治療を受けたBCP-ALL340例において、CR到達時の検体が使用可能であった260例中166例(64%)がMRD陰性(MRD<10-4)であり、無病生存期間(Log-rank検定 P=0.004)、全生存期間 (Log-rank検定 P=0.03)とも、MRD陽性群と比較して有意に良好でした4)。
初発の成人Ph陰性ALLにおいて、CRかつMRD陽性例ではallo-HSCTの意義は明確であり、日常診療においてもMRDを測定することは、治療方針を選択するうえで重要な指標となると考えられます。
Ph陰性ALLにおける予後因子としてのMRD

Ph陽性ALLにおけるMRD測定の意義
Ph陽性ALLにおいても、ABL-チロシンキナーゼ阻害薬+化学療法後に同種造血幹細胞移植を行う治療において、MRD陰性例で移植成績が優れることが報告されており5)、移植前のMRD陰性化はPh陽性ALLの治療における重要な目標であると考えられます。
小児ALLにおいてBCR/ABL1のmRNAまたはDNAを標的としたPCRとIG/TR RQ-PCRを比較した研究6)では、大半の患者では相関するものの、20%の症例においてIG/TR RQ-PCRに比べBCR/ABL1 qRT-PCRが10倍以上となることが報告されています。BCR/ABL1 qRT-PCRとIG/TR RQ-PCRの結果が一致しなかった症例では、白血病細胞以外のT/Bリンパ球および骨髄球系の細胞にBCR/ABL1が検出されており、治療により白血病細胞が減少した後も他の血球系にBCR/ABL1が残存していました。
このことから、一部のPh陽性ALLは慢性骨髄性白血病(CML)様の病態を有している可能性が考えられており、IG/TR RQ-PCRとBCR/ABL1 qRT-PCRの結果に差がみられる場合には注意が必要であると考えられます7)。
Ph陽性ALLにおけるMRD測定の意義

今回は、成人ALLにおけるMRD測定の意義についてご紹介しました。Ph陰性およびPh陽性ALLの治療において、MRDは強力な予後因子であるとともに、治療選択の重要な指標となります。
本日ご紹介した内容を、先生方の日常診療にお役立ていただければ幸いです。
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References
- Bruggemann M, et al., Semin Oncol. 2012;39: 47-57.
- Bruggemann M, et al., Blood Adv. 2017;1: 2456-66.
- Gokbuget N, et al., Blood. 2012; 120:1868-76.
- Ravandi F, et al., Br J Haematol. 2016; 172:392-400.
- Lee S, et al., Leukemia. 2012; 26: 2367-74.
- Hovorkova L, et al., Blood. 2017; 129: 2771-81.
- 松村到 編集, 急性白血病診療テキスト エキスパートに学ぶ, 中外医学社 2020; 252.