副作用と支持療法
支持療法とは1,2)
抗がん剤治療中に起こるさまざまな副作用を軽減するための治療を支持療法といいます。
抗がん剤治療ごとに起こりやすい症状や時期を予想し、それぞれに応じた支持療法を行います。
抗がん剤治療による主な副作用

国立がん研究センターがん対策情報センター編著. 患者必携 がんになったら手にとるガイド. 普及新版. 東京: 学研プラス; 2013. p.143-147.より作成
主な支持療法
吐き気・嘔吐 |
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発熱 |
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脱毛 |
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下痢 |
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感染症 |
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岡元 るみ子 監修.治療も仕事もサポートします!まるごと副作用ケア がん化学療法のレジメン44 やさしくまなべるBOOK.大阪: メディカ出版; 2018.
p.198-199,202-206,213-215. を参考に作成
抗がん剤治療による主な副作用と対応
症状・副作用 | 対応 |
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感染症 |
人混みに出ることを避け、外出する場合にはマスクを着用し、手洗い、うがいを励行する。 切り傷など、けがをしないように注意する。 |
発熱 |
まず感染症を想定し、抗菌薬を使用して直ちに対応する。 |
出血傾向 |
転倒やけが、打撲に注意する。 歯ブラシは毛のやわらかいものを利用し、歯ぐきを傷つけないようにする。 出血したときには、出血した場所をタオルなどで圧迫して止血する。 血小板が著しく減っているときには、脳出血や消化管出血を起こしやすくなるため、入院して血小板の輸血をしなければならない場合もある。 |
貧血・だるさ・疲労感 |
少しの活動でも疲れたり、息切れがしたりする場合には休息を取る。 貧血の程度によっては、輸血を必要とする場合がある。 |
脱毛 |
どの薬剤も大なり小なり脱毛を起こし、防止は困難。 帽子やウィッグ、バンダナなどを使うとよい。 化学療法後1~3ヵ月で再生が始まり、3~6ヵ月で元に戻ることをあらかじめ患者さんに説明しておくことが重要である。 |
吐き気・嘔吐 |
制吐剤を服用。吐き気を感じたら、冷たい水などでうがいをする。 場合によっては水分や栄養補給のために点滴治療を行う。 |
下痢 |
医師に相談し、下痢止めの薬を使う。 刺激物の摂取は控え、脱水予防にイオン飲料などで水分補給をする。 |
皮膚の発疹やかゆみ・血圧の低下・不整脈・呼吸困難(アレルギー反応による) |
アレルギー症状があらわれたら、医師や看護師に直ちに知らせる。 |
乏尿・胃腸症状・無力状態・頭痛・意識障害・痙攣・呼吸困難 |
予防として十分量の補液と高尿酸血症治療薬の投与を行う。 尿をアルカリ性に保つ。 尿が出ない場合は透析を検討する。 |
出血症状あるいは虚血性の多臓器不全症 |
臨床症状のみからは診断が不可能で、血液凝固線溶系の諸検査が必須。 抗凝固療法および補充療法を行う。 |
消化管潰瘍 |
粘膜保護薬と、H₂受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬を予防投与する。 H₂受容体拮抗薬は、骨髄抑制を生じることがあるので注意する。 |
呼吸困難・咳・痰 |
呼吸がしづらい場合には医師や看護師に相談する。 原因によって酸素吸入、胸腔穿刺ドレナージ、薬剤による治療などを行う。 |
リンパ浮腫 |
むくんでいる、重い、だるいと感じたときには医師に相談する。 |
肝炎・肝機能障害 |
原因薬の中止が原則である。 |
口内炎 |
予防のため、抗がん剤治療前から、虫歯や歯周病も治療しておく。 こまめにうがいをする。やわらかい歯ブラシを使う。食事は刺激物を避ける。 炎症を抑えるうがい薬、塗り薬や痛み止めを使う。 |
末梢神経障害(手足のしびれ) |
手足の感覚が鈍くなったり、しびれを自覚したりした場合には担当医に相談する。 マッサージや手指の運動で効果があることもある。 |
不妊 |
男性:化学療法開始前に精子の凍結保存を行う。 女性(配偶者あり):卵子を採取し受精卵として凍結保存する。 女性(配偶者なし):未授精の状態で卵子を凍結保存する。 |
東原正明・須永真司編. 血液内科クリニカルスタンダード. 第3版. 東京: 文光堂; 2015. p.276,281,354-355,357-359,371.より作成
金倉譲編. ここまできた白血病/MDS治療. 東京: 中山書店; 2013. p.320,331.より作成
国立がん研究センターがん対策情報センター編著. 患者必携 がんになったら手にとるガイド. 普及新版. 東京: 学研プラス; 2013. p.143-147.より作成
国立がん研究センター がん情報サービス 生活・療養 様々な症状への対応 呼吸困難・咳・痰. [閲覧日: 2025年1月24日]:https://ganjoho.jp/public/support/condition/dyspnea.htmlより作成
国立がん研究センター がん情報サービス 生活・療養 様々な症状への対応 リンパ浮腫. [閲覧日: 2025年1月24日]: https://ganjoho.jp/public/support/condition/lymphedema/index.htmlより作成
神田善伸. HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY. 2016:23(4):59-64.より作成
造血幹細胞移植
造血幹細胞移植とは
造血幹細胞移植(HSCT) には同種と自家の2つの移植がありますが、ALLについては主に同種造血幹細胞移植が実施されます。
同種造血幹細胞移植と自家造血幹細胞移植

医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5 血液. 第2版. 東京: メディックメディア; 2017. p.200-201,205.より作成
飛内賢正監修. 血液のがん. 東京: 講談社; 2015. p.45.より作成
また、同種造血幹細胞移植は、採取部位により3種類に分けられます。
同種造血幹細胞移植の種類

直江知樹編. インフォームドコンセントのための図説シリーズ 白血病/骨髄異形成症候群. 大阪: 医療ジャーナル社; 2013. p.51.より作成
飛内賢正監修. 血液のがん. 東京: 講談社; 2015. p.45.より作成
医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5 血液. 第2版. 東京: メディックメディア; 2017. p.202.より作成
同種造血幹細胞移植の流れ3)
移植適応となりえるタイミングや条件を確認し、それぞれのメリット、デメリットを見極めながら選択していくことが大切です。
同種造血幹細胞移植の流れ

ドナーの造血細胞が患者さんのリンパ球による拒絶反応や疾患の再発を防ぐために、移植の1週間前から前処置を行います。
前処置では、大量化学療法や全身放射線照射を行い、骨髄中の白血病細胞とともに正常細胞も根絶します。
ドナーの細胞を拒絶する免疫力を破壊し、拒絶反応を予防する効果もあるため重要な処置です。
東原正明・須永真司編. 血液内科クリニカルスタンダード. 第3版. 東京: 文光堂; 2015. p.335-339.より作成
造血幹細胞移植とHLA
同種造血幹細胞移植を行うには、患者さんとドナーのHLAの一致が必要です。HLAは白血球の型を示す抗原のことで、HLAが全て一致する確率は、非血縁者では1/10,000以下とされます。

医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5 血液. 第2版. 東京: メディックメディア; 2017. p.203-204,207.より作成
小児ALLの造血幹細胞移植4)
ALLのタイプによっては、第一寛解期での同種造血細胞移植を考慮します。
初期治療で非寛解のALLに対しては、寛解到達後に同種造血細胞移植を考慮します。

造血幹細胞移植後の合併症5-8)
GVHD(移植片対宿主病:graft-versus-host disease)
移植後に起こりうる合併症で、発現時期により急性GVHDと慢性GVHDとに区分されます。ドナー由来のリンパ球が、移植後の体を外敵とみなして攻撃するために起こります。
合併症となる一方で、ドナーのリンパ球が患者さんの体内に残っている微小残存病変を攻撃し、再発を少なくさせる移植片対白血病効果(GVL効果:graft-versus-leukemia)も期待できます。

須永真司著. 病態生理がわかればケアがわかるみるみるナットク血液疾患. 東京: 文光堂; 2011. p.60 を参考に作成
感染症
抗がん剤の副作用である骨髄抑制により正常な造血ができなくなり、白血球が減少し免疫力が低下するため、抵抗力が弱くなります。
感染症がみられた場合には、抗菌薬などの投与や無菌室への入室などの感染管理を行います。
不妊
前処置の大量抗がん剤や全身放射線照射により、高頻度に不可逆的な性腺機能障害を生じます。
精子や受精卵、未受精卵の凍結保存、卵巣を覆っての全身放射線照射などが試みられています。
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References
- 直江知樹編. インフォームドコンセントのための図説シリーズ 白血病/骨髄異形成症候群. 大阪: 医療ジャーナル社; 2013. p.42.
- 須永真司著. 病態生理がわかればケアがわかるみるみるナットク血液疾患. 東京: 文光堂; 2011. p.70-73
- 医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5 血液. 第2版. 東京: メディックメディア; 2017. p.204.
- 日本小児血液・がん学会編. 小児白血病・リンパ腫 診療ガイドライン 2016年版. 2016. p.32-33.
- 医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5 血液. 第2版. 東京: メディックメディア; 2017. p.206-207.
- 東原正明・須永真司編. 血液内科クリニカルスタンダード. 第3版. 東京: 文光堂; 2015. p. 337,342,344.
- 飛内賢正監修. 血液のがん. 東京: 講談社; 2015. p.82.
- 神田善伸. HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY. 2016. 23(4): 59-64.