寛解導入療法
寛解導入療法の基本と治療薬の選択1-4)
作用機序が異なる複数の抗がん剤を組み合わせる多剤併用療法が基本です。
単剤投与に比べ薬剤耐性白血病細胞の増殖を抑制でき、抗腫瘍効果を大きくし、副作用を分散・軽減できる利点があります。
どのような薬剤の組み合わせを使うのかは、まず、Ph染色体の有無で分類されます。

須永真司著. 病態生理がわかればケアがわかるみるみるナットク血液疾患. 東京: 文光堂; 2011. p.103 を参考に作成
Ph陽性 | 若年者・高齢者 | 白血病細胞の増殖を抑える分子標的薬「チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)」を抗がん剤と併用します。 |
小児 | 化学療法とともに、TKIを維持療法終了まで可能な限り中断なく投与します。 | |
Ph陰性 | 若年者・非若年者 | 思春期・若年成人(約30歳まで)の患者さんでは、 小児プロトコルが推奨されます。一方、一般成人(30~64歳)や高齢者(約55~60歳以上)の場合は、標準治療は 確立されておらず、開発段階にあります。 |
小児 | 抗がん剤による多剤併用化学療法を4~5週間かけて行います。
ALLでは髄液中に白血病細胞を認めることが多いため、CNS予防治療として、メトトレキサートの髄注を行います また、寛解導入療法の終了直後からCNS再発予防治療および再寛解導入療法を含む寛解後強化療法を行います。 |
地固め療法
地固め療法とは
寛解導入療法後、完全寛解が確認されたら地固め療法を開始します。
Ph陰性ALL5)
多剤併用化学療法を実施します。
Ph陽性ALL6)
多剤併用化学療法にTKIを追加します。

維持療法
維持療法とは
寛解導入療法と地固め療法で得られた完全寛解を維持するために行います。
Ph陰性ALL1)
地固め療法のあと、寛解導入療法開始から2年間、維持療法を行います。
第一寛解期で造血幹細胞移植を行わない場合、維持療法が推奨されます。
Ph陽性ALL1)
同種移植を行わない場合、TKIを含む維持療法が推奨されます。
上記の場合、TKIは治療開始から5年以上継続することが推奨されます。
小児Ph陰性ALL7-9)
白血病細胞の残存を原因とする再発予防を目的に、1~2年間行われます。
外来通院も可能です。
小児Ph陽性ALL10)
化学療法とともに、TKIを維持療法終了まで可能な限り中断なく投与します。
救援療法
救援療法とは1,11)
再発した場合、あるいは寛解導入療法で寛解が得られない難治性ALLの場合は、救援療法を行います。
ALLの再発は地固め療法中、維持療法中、維持療法終了後などさまざまな時期に起こり得るため、再発ALLの治療では、前治療歴と再発までの期間を考慮して、治療薬剤を選択します。
救援療法の選択肢1)
多剤併用化学療法のほか、治療方法として、免疫療法剤、抗体薬物複合体、免疫細胞療法があります。
再発小児ALL12,13)
小児ALLでも約20%に再発がみられます。再発ALLの長期生存率は約30~40%です。第一再発ALLでは、再発時期、再発部位、および免疫学的分類により治療が異なります。
再発について
臨床的に完全寛解になっても、ごくわずかなMRDが残っており、それが再び増殖してくることを再発と呼びます。
完全寛解が3年以上続けばまず再発せず、5年以上完全寛解が続けば治癒したとみなされます。
再発と白血病細胞の数の変化

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References
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- 日本小児血液・がん学会編. 小児白血病・リンパ腫 診療ガイドライン 2016年版. 2016. p. 9,13, 15, 19-20, 22-23.
- 日本小児血液・がん学会編. 小児白血病・リンパ腫 診療ガイドライン 2016年版. 2016. p. 9,13, 15, 19-20.
- 薄井紀子編. 急性リンパ性白血病(ALL)の基礎と臨床. 大阪: 医薬ジャーナル社; 2016. p.174-176.
- 東原正明・須永真司編. 血液内科クリニカルスタンダード. 第3版. 東京: 文光堂; 2015. p.127-128.
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- 直江知樹編. インフォームドコンセントのための図説シリーズ 白血病/骨髄異形成症候群. 大阪: 医療ジャーナル社; 2013. p.69.
- 日本小児血液・がん学会編. 小児白血病・リンパ腫 診療ガイドライン 2016年版. 2016. p.17.
- 日本小児血液・がん学会編. 小児白血病・リンパ腫 診療ガイドライン 2016年版. 2016. p.22-23.
- 医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5 血液. 第2版. 東京: メディックメディア; 2017. p.116,119.
- 薄井紀子編. 急性リンパ性白血病(ALL)の基礎と臨床. 大阪: 医薬ジャーナル社; 2016. p.177.
- 日本小児血液・がん学会編. 小児白血病・リンパ腫 診療ガイドライン 2016年版. 2016. p.28-30.